思い通りに生きた奴は天国にいける

父が倒れた。
糖尿病から来る昏睡状態から脱し、退院したのが2年前。
それから若年性のアルツハイマーを患い、
そして一昨日ふたたび倒れた。
瞳孔反射もなく、
完全に死んだ状態であったが、
息を吹き返した。
すさまじい生命力だ。
血の中にナトリウムが常人の3倍以上流れており、
小腸が腫れ上がって腐っていても、
人は生き続けるのだ。

からだに塩水が流れても生きようとする父の姿に
哀しみを通り越して畏怖した。
おれはすごい人の息子だったのだなと、
改めて思う。

最近の父はすっかり子供に戻っており
母に甘えていた。
兄と母の苦労は並大抵ではなかったはずなのに、

母は

父と手を繋いで歩けるのが嬉しかったという。

親父が危篤と聞かされたときには泣かなかったが、
その話には泣いた。

今度父と会えるのは
鯨幕の下だろう。

だが、親父はおれの中で
間違いなく生きている。
月並みな言葉だが
おれにはそれが誇らしい。
親父が逝く事は哀しくはない。
残されたおれたちがどう生きるかということだけを
おれは考えている。